生きている内はすべての財産は自分の物ですが、相続開始と同時に相続人の共有財産になり、その処分は相続人の手に委ねられる事になります。
民法では相続割合は一律で相続人の色分けはなく、各相続人が等しく相続割合で取得する権利を有します。
しかし現実には財産を残したい孝行息子もいればそうでないドラ息子もいます。
また、相続財産が少額な事案ほどトラブルが起きるケ-スが多いようです。
家庭裁判所への調停依頼件数は年々増加していますが、「遺言書があれば大半は調停不要です。」家庭裁判所の調停委員の感想です。
残された人へ自分の考えをしっかりと伝え、民法の相続分に縛られる事なく、円滑に相続を終了させるために遺言書作成はぜひ実行したいものです。
(ただし、遺留分を侵すことは出来ません)
相続税においても、看病、介護をしてくれた人、世話になった人など、相続人以外の人への遺贈も遺言書への記載が必要になります。
近年、家族信託の制度が整備され、遺言書の作成と合わせて行う事により、民法の壁を破る相続対策が可能になってきています。
遺言書の種類は大きく分けると
①自筆証書遺言と②公正証書遺言に分けられます。
自筆証書遺言は何かとトラブルの元になることが多いので、基本的には公正証書遺言をお勧めします。
2019年(平成31年)1月13日から自筆証書遺言について以下の改正がありました。
①自筆証書遺言に添付する財産目録はワ-プロ作成でもOK
②遺言執行者の権限の明確化
③自筆証書遺言書も法務局で保管出来るようになりました。
この場合、相続開始後に遺言書の請求が出来、家庭裁判所における検認は不要になります。
④配偶者の短期居住権を保護する制度ができました。
絵が好きな郁子さんは芸術好きな彼と長い同棲の後、最近結婚して郊外の小さなマンションで静かに2人だけの年金生活を送っていました。
芸術家の彼女は、ある日彼が「遺言書を書かなければ・・・」といった事も全く気に留めていませんでした。
彼が急死した後、自宅とわずかな預金は自分の物になると思っていたところ、財産の1/4は兄弟の相続分と聞かされた時の驚き。
調べてもらうと彼は12人兄弟の10番目。兄弟にはまったく会った事も無く、誰がどこにいるのかも知りませんでした。
結局相続人の大半は死亡しており、その子供や中には生死不明の者もいて印鑑をもらう必要がある人が何と25人。
これからが大変でした。マンションの価格をべらぼうに吹っ掛け、取り分を少しでも多く取ろうとする者も現れ、思わぬ揉め事になってしまい解決するのに1年半を要しました。
1枚の遺言書があれば余分な時間もお金も、まして心身共に疲弊するような体験をする必要は無かったのです。
財産の多寡ではなく、残された人の事も考えて遺言書作成の習慣を作りたいものです。
信託とは委託者が自己(委託者)の財産を信頼しうる他人(受託者)に譲渡し、自己の指定した者(受益者)の利益のために管理または処分させる契約です。
例えば成年後見人制度と違い、目的に従って財産の処分が可能です。
家庭裁判所への報告の義務もありません。
それらを可能にした家族信託の活用が民法主体の従来型相続を変えつつあります。
1.信託の目的の設定
2.当事者の選任
3.当事者で信託契約書を作成する。
(実際は契約の信ぴょう性を確保するために公証役場で公正証書を作成します。)